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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)69号 判決 1966年12月19日

理由

一、被控訴人らに権利帰属の点《省略》

二、控訴人に義務帰属の点

本件8の約束手形を控訴人が振出したことは控訴人の認めるところであり、その余の各手形を控訴人において引受(為替手形)又は振出(約束手形)をしたことは控訴人において明かに争わないので自白したものとみなされる。

もつとも控訴人は6の為替手形は額面のみを記載して引受人欄に控訴人が記名捺印して訴外森田染工場に交付したにすぎず、右引受当時振出行為はなく(振出の否認はこの意味)、且つ右手形には白地補充権は与えられていないから控訴人に責任がない旨主張するので、この点について考えてみる。金額欄、支払期日欄、支払地欄、支払場所欄、支払人欄中控訴人の氏名部分及び引受人欄の記載につき成立に争のない甲第六号証原審証人岡崎章雄の証言、被控訴人金の供述(一部)を綜合すれば、控訴人が頼母子講白川会の清算金として被控訴人金に支払うべき債務額につき控訴人は振出人欄、受取人欄白地のままで、その他の要件は被控訴人金主張の記載ある6の為替手形用紙(甲第六号証)に引受をし、これを当時その債権者委員会の委員長をしていた森田染工場こと訴外大原道寅に交付し、右大原はこれを被控訴人金に交付したこと、同被控訴人が右手形に自己を受取人として振出行為をし、右白地を補充したことが認められ、右認定にていしよくする控訴人及び被控訴人金の各原審における各供述部分は措信せず、他に右認定を左右する証拠はない。右のように控訴人が振出行為のない白地手形に引受をした以上は他に特別の意思表示のない限り後日白地を補充されることを承諾の上、控訴人において右手形を流通においたものと推認すべく、殊に右引受(白地引受)の趣旨からみて被控訴人に交付されることは予定していたところであるから、控訴人が右引受に際し補充権を与えたもので又従つて何人にもその為替手形の振出行為を禁ずる趣旨でこれが引受けをしたものとは到底認められない。そして後日右手形の振出署名がなされ、右手形要件が補充された以上控訴人は右手形の引受人としての責任を負うべきこというまでもない。そして仮に右振出署名が署名人において偽造されたものとしても、手形行為独立の原則上引受人は自己の責任を免れることはできない。けだし、白地手形は後日要件が補充されたとき署名者が手形上の責任を負うにいたるものであり、右のような白地引受手形も白地手形の一態様たるにすぎないからである。すなわち、為替手形の引受や裏書等附属的手形行為は基本手形(振出)を前提とするものであるが、それは理論上基本手形を前提とするだけで実際上基本手形(振出)が時間的にまず完成していなければならないことはないから、為替手形の引受人(又は裏書人)がまづ手形に署名して白地手形を作成し、振出人がその後に署名をすることは何ら妨げず、右引受はいわゆる白地引受としての効力を有するものといわねばならない。

三、《省略》

四、《省略》

五、結論

してみれば控訴人は被控訴人金に対し、1ないし6の為替手形金合計金六三三、七〇〇円及びこれに対する各満期の翌日以後である昭和三八年六月二一日以降、同7の約束手形金二九七、八〇〇円及びこれに対する前記認定の支払猶予期間経過後の昭和三八年九月一日以降(本件訴状が控訴人に昭和三八年七月二五日送達されていることは記録上明かであるから、これをもつて、手形の主債務者に対する遅延損害金請求についての呈示要件は充足され、ただ右猶予期間中は遅延利息が発生しないものと解するを当事者の意思解釈上妥当とする)、右各支払済にいたるまで年六分の割合による金員(右7については商法所定遅延損害金、1ないし6については手形法所定の法定利息金。但し同被控訴人は後者についても遅延損害金と称するが法定利息金の発生する限り、遅延損害金の請求は排除されるものと解すべく、同控訴人の右請求は法律上の命名を誤つたにすぎない。)を支払う義務あり、よつて、同被控訴人の控訴人に対する請求は右の限度において理由があり、その余の部分(7の遅延損害金の一部)は理由がない。また、被控訴人児島の控訴人に対する請求は全部正当として認容されるべきである(但し、附帯請求については、いずれも呈示期間内に呈示されているから手形法所定法定利息と解す)。よつて右と同旨に出た原判決は結局相当である。

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